Web Advertising Bureau | Web広告研究会

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「お中元商戦のビール売上はデータドリブンでどう変わるのか、大丸松坂屋百貨店がデータ分析で得たこととは」2014年11月26日開催 月例セミナー イベント報告

  • 掲載日:2015年1月9日(金)

勘や経験に頼ることなく、データドリブンのマーケティングを実戦することで、売上を伸ばすことはできるのか。2014年11月月例セミナーでは、Big Data研究委員会が大丸松坂屋百貨店のお中元商戦ビールのデータを分析した結果が発表された。これまでの仮説をデータが裏付けたのかを検証し、大丸松坂屋はこれらの結果に対してどのような意見を抱いているのか、企業のマーケティングにおいてデータがどのように重要であるのかを読み解いていく。

社内で培われた仮説は正しいのか?


Web広告研究会
Big Data研究委員会
副委員長
菅原 裕氏

「今回は、分析行うことで、大丸松坂屋百貨店で何が起きたかを中心に話をしたい」と、Big Data研究委員会の菅原氏は話す。長期間にわたりデータ分析を行った結果、変化は起きたのだろうか。

今回の分析・検証の目的は、大丸松坂屋の2014年お中元における、ビール4社(アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー)の商品売上データを解析し、大丸松坂屋社内で考えられていた仮説を検証することだ。

分析する仮説
1. メーカーのマス広告料が、当該メーカーのギフト商材の販売に影響する。
2. 自社Webの露出(広告、メール、検索連動型広告)が影響する。
3. 屋外広告・交通広告の量が当該メーカーのギフト商材の販売に影響する。

分析は社内データだけでなく、広告統計やネット上のクチコミ数、検索数を含めたデータを集め、大丸6店舗、松坂屋3店舗に絞って調査は行われている。

広告効果は意外と薄いことがわかった数理モデルによる分析


株式会社ブレインパッド
大畠 正照氏

数理モデルによる分析を担当したブレインパッドの大畠氏は、「お中元のビール商材の売上に広告がどれだけ寄与しているかを見たいと考えていたが、結論を簡単に言うと、数理モデルによる分析では広告効果は限定的だった」と話す。

大畠氏は、まず重回帰分析を行ったが、実績値と予測値の乖離が大きく、ほぼすべての期間で広告効果を過剰評価してしまう結果になったという。重回帰分析では、それぞれの「広告の効果が常に一定(定常状態)」と仮定しているため、このような結果となったという。しかし、実際には広告効果は時点によって異なると考える方が自然である。そこで、大畠氏は、時間変化を許容でき、売上の増減に関わる各要素の影響を検討できる分析モデルとして状態空間モデルを採用したという。

状態空間モデルを用いることで、重回帰分析に比べて予測精度が大幅に向上したとする大畠氏は、広告効果に寄らない要因(base)が売上に寄与する度合いがかなり大きいという分析結果になったと話す。

売上の実測値と予測値(状態空間モデルによる分析結果)



各変数の寄与度

この結果について、お中元は習慣性が強く出やすい購買行動であるため、広告効果が薄いのではないかと仮説を立てた大畠氏は、新規客に絞り込んだ分析も行ったが、baseが大きい傾向は変わらず、広告効果は限定的で、「自社Webの露出(大丸WebサイトのPV)の効果はほぼ見られなかった」という。

さらに、既存客のなかで昨年はビールを買わずに、今年ビールを買った人に絞り込んだ分析では、baseが依然として大きいが、若干マス広告の寄与が高い傾向がみられ、相対的に広告効果の高いセグメントである可能性が考えられる結果となった。

2013年お中元ビール非購入者かつ2014年のお中元ビール購入者に絞り込んで分析した結果

これらの分析の結果を受けて大畠氏は、baseが何であるのかは、数理モデリングだけでは明確に知ることは難しく、消費者アンケートなどを実施することで手がかりを得るしかないとしている。また、広告のメッセージやテイスト、クチコミの内容といった質的なデータについては本分析モデルでは考慮できていないが、これらデータを盛り込むことができれば、より精緻な分析モデルの構築ができると考えられる。いずれにせよ、数理モデリングのみから得られる知見には限界があるため、使える分析手法やデータは何でも使って分析の目的を達成するアプローチが重要であるとした。

意識調査やクチコミ調査でさらに深彫りしていく。


株式会社インテージ
家中 孔憲氏

データ分析によるアプローチとあわせて、Webアンケートによる意識調査を担当したインテージの家中氏は、全国で次の3者を対象に調査したと話す。

ユーザー意識調査の対象者
・2014年、大丸松坂屋でのお中元購入者(1000人)
・2014年、大丸松坂屋以外でのお中元購入者(1000人)
・2014年、お中元非購入者(1000人)


意識調査から、贈答のキッカケは「毎年贈っているから」が最も高く、70%を超えている。また、贈答のキッカケが「広告を見た」と答えた人は全体の5.7%だが、贈答を始めた年数が浅い層ほど高い傾向にあり、2014年からの新規贈答者は18.2%となった。接触した広告の種類は、テレビCM、折り込みチラシに次いでインターネットが3位となっている。品目決定のキッカケで「広告を見た」と答えた人は5.9%で、贈答のきっかけと同様、それほど高くはない。数理モデルで立てた、習慣性が高く広告効果が限定的であるという仮説・結果を支持する傾向となっている。



贈答のきっかけ

新規贈答者の割合は全体の2.7%で、そのきっかけは「結婚・出産」が多くなってきており、全贈答者で高かった「家・地域の習慣」が減少する結果となった。



お中元贈答のきっかけ

また、新規贈答者の各メディア利用率は、すべてのメディアで全贈答者を下回っており、情報感度があまり高くないと考えられ、インターネットを毎日利用する率も他のセグメントより低い結果となった。利用サイトの調査では、新規贈答者のクチコミサイト利用が目立って高くなっているという。


お中元の新規贈答者のインターネット利用実態

ソーシャルメディアのクチコミからお中元を分析


株式会社ホットリンク
宮田 洋毅氏

クチコミキーワードによる分析を行ったホットリンクの宮田氏は、お中元に関するクチコミは6月中旬から徐々に増加し、7月1日と15日に急激に伸びていることを示す。SNSはメディアごとに特徴があるが、今回は「購買消費行動などの“なぜ”がわかりやすい」媒体として、投稿に時間がかかり、背景情報などを理解できるブログにフォーカスして行動別や態度別などの切り口で解析を行っていった。なお、首都圏や関東以外では、TwitterやFacebookを敬遠する傾向がソーシャルメディア委員会の定性調査から出ており、意外と首都圏外ではブログを使っている人が多いと宮田氏は説明する。
クチコミは贈る人ともらう人を別々に見ていき、贈る側のクチコミが増加した6月中旬、もらう側のクチコミが増加した7月1日~3日のそれぞれの瞬間の中身を読み解くようにしている。

行動別にクチコミを分析

お中元をもらう側のクチコミとしては、喜ぶものが8割で、約15%程度は「急いでお返ししなくては」といったネガティブなクチコミもあったという。


クチコミが伸びた7月1日の頻出語

ポジティブ いい、美味しい、おいしい、嬉しい
ネガティブ 早い、時期、明日、注文
その他 今日、自分、お歳暮、実家、多い、良い、手配、ご飯、お菓子

また、6月中旬のクチコミの伸びでは、「時期・時間・早い・お中元の手配・準備・毎年」といった、手配を焦る内容や恒例行事という内容が多いという。

クチコミの内容を男女別に見ると、女性のほうがもらったときの反応が2~3割高く、女性が反応しやすい商品を贈ることによって、お中元市場を活性化できるような施策も考えられると宮田氏は説明する。贈る側のクチコミでは、手配を焦るものや、毎年恒例行事を達成したというものが多かったという。

また、商品を選んだり、カタログ閲覧することが楽しいといったものも見られたようだ。そこで、カタログという単語にフォーカスして男女別に見ていくと、4:6で女性のクチコミが多く、女性はカタログに肯定的で閲覧を楽しむ人がいる一方、男性はカタログに否定的で選ぶことができずに不快に持っていることが多いという分析結果となった。

クチコミの分析結果をまとめた宮田氏は、お中元の施策として、「贈らなければ!」と焦る気持ちをうまく拾い上げるコミュニケーション戦略や、男性にはシンプルな商品コミュニケーション方法、女性は相手にあわせて選べる楽しみを提供することが提案できるとしている。

また、お中元のマナーや相手に失礼がないかなど、お中元に対して不安を抱いていることがクチコミでわかったと話す宮田氏は、新規顧客を獲得するためには不安を緩和させ、「自分用お中元」や「のしを付けない」など、新たな文化の浸透がカギかもしれないとまとめた。

分析結果を見て大丸松坂屋百貨店が感じたこと

     
株式会社大丸松坂屋百貨店
神谷 彩子氏
  株式会社大丸松坂屋百貨店
  田中 直毅氏 


分析結果を受けて何が起きたのか、第二部は大丸松坂屋百貨店から販売促進担当の神谷氏と、ギフト企画担当の田中氏が登壇し、Big Data研究委員会の分析結果とこれまでの仮説の検証が行われた。

デパート業界では、特にお中元に関して「20世紀型ビジネスモデル」で、「21世紀型のマーケティングコミュニケーション」を実現できていない危機感があると神谷氏は話す。さまざまなデジタル施策やソーシャルメディア活用、ゲーム会社とのコラボ、オムニチャネルなどの取り組みを行っているが、次第にデジタルとリアルの連携に限界を感じており、データに踏み込んだマーケティングの必要性を感じていたという。

また、数理モデルによる分析については、分析前にお中元広告の効果の分析モデルを作ることが実際にできるのだろうかという疑問を持ち、できたとしても広告配分比率の根拠となり得るのか、アイテムや顧客などの目的変数を変えたときにどの程度の労力がかかるのかということを考えていたという。

「今回の分析に参加してよかったと考えている。ただし、気軽に参加できるものではない。担当者として心構えは必要だった。データを集めるためには社内の理解を得ることが必要で、ただデータを渡してもらえばいいわけではない」(神谷氏)

「分析結果を見たときには、習慣化していて広告効果に寄らない要因(base)が予想を上回る大きさで衝撃を受けた」と話す田中氏は、一方でTwitterの効果に厚みがあり、効果が継続的だったことも意外だったと説明する。昨年まではビールを買っておらず、今年からビールを購入した人では、広告効果が若干高い傾向にある。

ここで田中氏が、「ビールブランドの乗り換えや、購入するデパートの乗り換えなどを促進するためにセグメントを分けた分析はできるのか」と尋ねると、大畠氏は「セグメントを分けて分析することはできるが、リテールのスイッチについては、他社の売上データを取れるかどうかが課題となる」と説明する。

アンケートから顧客の実態はどこまでわかるのか

Webアンケートによる意識調査については、お中元は高年齢層の購入割合が高いため、Webアンケートでお中元に関する顧客の実態がわかるのか(インターネットとの親和性が低いのではないか)、お中元でWeb広告の効果は本当にあるのかといった疑問があったと神谷氏は説明する。ただし、これまで顧客の生の声を聞くことが限定的であったなかで、さまざまな声を聞くことは非常に貴重であったと田中氏は話す。

お中元の贈答率や贈答先のアンケート結果については、現場の肌感覚に近い一方で、品目でビール(3位)を菓子類(2位)が上回る結果になったことに驚いたと田中氏は話す。大丸松坂屋のお中元ではビールが最も売れているが、2位の洋菓子が肉薄している状況で、お歳暮ではすでに7年前から洋菓子が売上トップになっているが、それでも菓子のシェアが高いと感じたという。また、贈答品の品目アンケートでカタログギフトが低いから、食品用のカタログギフトがあることが十分に認知されていない可能性があり、しっかりと伝えるべきだという反省も行われた。

贈答のきっかけ、贈答先は現場の感覚に近いものだった



贈答品の品目と購入時の重視点

贈答のキッカケで「広告を見た」という回答が少ないのは、数理モデルの分析を裏付けているとした田中氏は、改めてお中元の習慣化と広告効果の低さを認識したと話し、今年からお中元を始めた人の「広告を見た」が比較的高いことも含め、顧客に対する広告手法の課題を認識したと説明する。また、同様に贈答品決定のキッカケでも広告効果が低いことに衝撃を受け、ネット広告の接触率が上がってきていることにも驚いたという。

お中元を贈るとき、受け取るときの感情を見える化

クチコミキーワードによる分析に対しては、ブログやSNSへの書き込みは少ないのではないか、売上に対するブログやSNSの影響は少ないのではないか、といった疑問があったという。ブログでは、お中元に関する書き込みの割合が年々減少しており、お中元に関する関心が減少している結果となったと説明する神谷氏は、ポジネガ比率でポジティブな意見が微増しているのは、お中元が儀礼的なものからパーソナルなものに移行しているためではないかと話す。

お中元が儀礼的なものからパーソナルなものへ移行している可能性がある

また、クチコミキーワード分析によって贈るときやもらうときの感情がグラフになったところが良かったと話し、お中元を面倒だと感じながらも来店し、もらう側からのお礼の言葉を聞くとポジティブな感情に変わっていることや、カタログに対する男女の反応の違いなどが興味を引いたことも明かしている。

分析を継続して新たな課題や視点を見つける

今回の分析の課題として、神谷氏は、分析手法の変更や、分析を新規と既存に分けるといった変更によって、急に昨年以前のデータも必要となり慌てたことを挙げる。データ収集する際の戸惑いとして、何のデータを、どの程度の粒度で集めればよいかが最初わからなかったのも課題だった。また、そのデータをどの部門が持っているかも調べなければならず、新規客と既存客という区分をしていなかったなかで、どのような条件で見ればよいかもわからなかったという。

Web広告研究会の分析チームからは、どんな形でもよいからまずは送ってほしいと言われたが、システム部門などからデータをもらう際には、目的や抽出条件を説明する必要があったため、非常に困ったとも神谷氏は話す。また、2014年6月時点でデータの所管部署が3社にまたがっていたことも、データを用意しづらい要因となっていた。

分析過程では、ビールが対象になったが、販売価格が変化しやすく、350ml缶や500ml缶があり、ギフトの場合は複数の品目が箱に入っていることから、金額や数量ではなく容量(ml)で分析するように変えたことも明かされた。

プロジェクトを通じて感じたことについて、田中氏は単発ではなく、継続して分析する必要があると話し、それによって掘り下げていく内容が増え、課題や視点が生まれると説明する。また、数理モデルだけでなく、アンケート調査を実施したことで従来の思い込みを見直すきっかけとなり、新たな仮説を見つけられたことは1つの効果だ。分析チームから率直な意見や指摘、知見を得ることもできたが、これを次のチャレンジにつなげるためには、内外で大きなあつれきが生まれることが予想できるため、相当の覚悟を持って行う必要があるという感想も述べている。

神谷氏は、今回の分析の課題として、顧客と直接コミュニケーションした結果の検証まで踏み込みたかったことと、売上拡大のための一方的なプッシュ施策では顧客との継続的な関係は築けないことを再認識したと話す。また、「状態空間モデルが一般的な手法でないにせよ、データをもらうためには社内の関係者にそれなりに説明しなければならないため、非常に大変だった」と語った。

分析結果にさまざまな衝撃を受けたと話す田中氏は、これまで顧客に対して正しいアプローチを行っていたと勘違いしていたことに気づかされたと話し、タッチポイントの検証も行わずに、従来の手法で購買意欲を喚起できると錯覚していたことなどを認識できたことが、大きなベネフィットだと感じているという。

これらを継続して検証していくことが重要で、「霧の向こうにスタートラインがやっと見えるようになった」と今回の分析を評価し、「クチコミでお中元が怖いという言葉が印象に残っている。お客様がお中元を大変なものであると感じているのと同時に、我々にとっても同じ言葉を突きつけられていると感じた」と話し、講演を終えた。


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