Web Advertising Bureau | Web広告研究会

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「そのLTVは顧客目線ですか? 三井住友カードのCX再創造とデジタル改革」2017年6月23日開催 月例セミナーレポート 第1部 イベント報告

  • 掲載日:2017年8月3日(木)

「デジタルマーケティングを推進するために必要な企業のWeb担当組織とは?」――Web広告研究会の6月月例セミナーの第一部は、デジタルマーケティング推進に向けて統合マーケティング部を発足した三井住友カードの講演。CXの取り組みとデジタル改革の成果を同部長の佐々木氏が解説した。
 

顧客目線へのマーケティングに転換した三井住友カード



三井住友カード株式会社
統合マーケティング部長
佐々木 丈也 氏

「顧客体験価値(CX)の再創造と、それを実践するためのWeb組織の取組み」と題した講演で、佐々木氏は所属する統合マーケティング部の4つの役割を挙げる。


1. データプラットフォームの整備
2. コミュニケーション戦略の整備
3. 課題分析とデータ活用設計
4. デジタルマーケティング施策・実施



統合マーケティング部は、顧客に寄り添うことを経営ビジョンとして掲げている。

「お客様に寄り添い、先進的な取り組みを通じ、決済をはじめとするさまざまなシーンにおいて、心地よい瞬間をお届けする企業を目指す」

企業目線のLTV(Life Time Value)ではなく、顧客目線に立ち、顧客が三井住友カードと長期的な取引を通じて得られる価値の最大化を目指す。つまり、顧客目線で心地よい瞬間を実現していくことが、将来の成長のカギになると考えたのだ。

こうした企業ビジョンを掲げるきっかけはいくつかあった。

「他のカード会社は、誕生日におめでとうのハガキを送ってくるのに対して、三井住友カードはリボ払いの案内ハガキを送ってくる」

これはTwitter上の顧客のつぶやきだが、タッチポイントでマイナス体験を提供していたと佐々木氏は話す。

また、会員向けのメール配信拒否が年々増加していることから、顧客目線で価値ある情報を配信していくように方向転換したと佐々木氏は説明する。クレジットカード会社として同社は、これまで年会費やポイント還元率などの「機能的価値(モノ)」を重視してきた。しかし、あらゆるタッチポイントで顧客にとって良質な体験を提供する「情緒的価値(コト)」を重視し、モノからコトへと提供価値を変化させていく必要があった。

良質な顧客体験を提供するためには、「対応力」「伝達力」「理解力」の3つの力が重要になると佐々木氏は続ける。

対応力を上げることで顧客の期待を超えるタッチポイントの心地よさを提供する。また、伝達力を上げることで顧客の今をとらえたアプローチ(CCCM:クロスチャネルキャンペーンマネジメント)が可能になり、理解力を上げることで顧客自身も気づいていなかった潜在ニーズを発掘できる。

これらを実現するために、心地よさでは「UI/UX」、伝達力では「CCCM」、理解力では「アナリティクス/AI」などが求められてくる。
 

当たり前のことを当たり前に実現する

顧客目線のコミュニケーションに取り組むため、三井住友カードではチャネルごとに分断された配信ツールの統合を進めている。

以前は複数のデータウェアハウスがあり、Web、SMS、メール、アプリなど、顧客チャネルごとに配信システムも分断されていた。

その結果、事業部の依頼を受けてメッセージを配信する企業目線のマスコミュニケーションとなっていた。顧客1人あたりが受け取るメッセージの種類が増え、内容の一貫性が薄れていたため、前述のようにメール配信拒否が増えていったのだという。

2016年から顧客コミュニケーションを見直してきたという佐々木氏は、「三井住友カードが顧客に伝えたいことと、顧客の興味・関心が重なる部分」をコミュニケーションの軸とし、基本方針として掲げていると述べる。

また、各事業部門の若手リーダーを中心に顧客コミュニケーションワーキンググループを組成し、全社ベースで徹底した顧客目線を議論して、カスタマージャーニーマップを作成していった。

カスタマージャーニーマップを作成する際は、顧客の期待以上の価値を提供しようとしたり、サプライズや感動体験を目指したりするのではなく、顧客にとって当たり前のことを当たり前に実現することを優先した。当たり前の顧客体験を積み重ねていくなかで、「気が利くね」と思ってもらえることが、企業と顧客の距離を短くする近道だと、佐々木氏は話す。

現在、データウェアハウスや配信ツールは全社的に統合され、個々の顧客がどのように行動しているのか、チャネルをまたいで分析できるようになった。また、カスタマージャーニーマップを浸透させるために、三井住友カードにおける顧客エンゲージメントを定義している。


三井住友カードの顧客エンゲージメント

 

顧客に伴走したメッセージでメール配信拒否が減少

顧客との良好な関係を構築するためには、まず顧客とつながり、どんな投げかけに反応したのか、その反応はポジティブまたはネガティブだったのか分析し、価値を感じてくれたのか、できる限りKPI化していく必要がある。

成果を定量的に把握することで、各事業部門の目的に施策がひもづけられていることを示すとともに、KPIに貢献しているとアピールする。こうした活動も、全社へのCX浸透のために重要だと佐々木氏は説明する。

コミュニケーションの最適化には、マーケティングオートメーションも活用している。新規入会者へのウェルカムメールの開封可否によって次のアクションを変更しており、開封しない顧客にはSMSを送って開封を促す。それでも開封されないときには、当該情報を送らないといったように自動化した。

これらの施策の結果、メール開封率とクリック率は2~3倍に増加した。また、さまざまなサービスを紹介するために入会後3か月間で平均12通送られていたメールを6通に減らし、内容を入会後の顧客体験にあわせた知りたい情報に絞ることで、メール配信拒否の割合も従来の配信手法と比較して10ポイント減少した。


顧客の行動に伴走したメールを配信


適切なメールコミュニケーションによって受信拒否率が改善

 

経営から現場まで浸透させるマーケティング組織作り

こうした一連の施策は、2017年5月に発足した統合マーケティング部を中心に進められている。Webおよび電話のカスタマーエクスペリエンス(CX)を担っていた「ネットビジネス事業部」と「フォーユーセンター企画部」、データ収集・分析を担っていた「マーケティング部」という3部門が1つになり、部門横断の顧客コミュニケーションが可能になった。

現在は、統合マーケティング部が各事業部の要望に応じたコミュニケーション設計やKPI管理を行い、全事業の土台となるコミュニケーション基盤を整備したうえで、各部と協働で全社的な業績貢献を目指している。

統合マーケティング部の発足とともに、中期経営計画でも「お客様に心地よい瞬間をお届けする企業を目指す」という経営ビジョンを明確にしている三井住友カードだが、経営層から現場まで意識を浸透させていくことが重要であり、今後の課題としている。

また、人材を多様化させるために、クレジットカード業務に精通した人材と、デジタルマーケティングに精通した人材を融合させて、クレジットカードとITの両方のスキルを持った人材を育てていくことが、外部の人材獲得も含めて検討されている。

さらに、デジタルマーケティングツールやIT技術は不可欠であり、各部門へ配置していくことも重要だと佐々木氏は話す。ただし、ツールによって施策の幅は広がるが、何を目的とするのか、使う人の意思やビジョンがブレないことが重要だ。

 

経営層から事業部まで、全社で顧客と向き合う

全社的に顧客のLTVを追求していくためには、統合マーケティング部だけでなく、各部門がマーケティングに理解を示し、顧客目線になることも重要だ。

三井住友カードでは、マーケティングの取り組みを各部門のKPIとひもづけて効果を見える化させているが、ときにはKPIを達成するための施策がマイナスになることもある。

たとえば、ファイナンス商品は収益性が高く、営業としても積極的に扱いたい商品だが、日中に電話をかけて案内したことで翌日にカードを解約されてしまうことがあった。

こうした事態を避けるためには、ユーザー行動を事業部に対してオープンにし、必要な人に必要なタイミングでメッセージを出すことが重要だと浸透させる必要があると佐々木氏は説明する。

また、テクノロジーを活用して組織横断的に各部の発想を具現化し、各部の施策効果を経営層に定期的へインプットするなどしていると佐々木氏は説明する。これによって、収益部門はアプローチを変えることでコスト削減できるという意識が生まれ、コストやリスクの管理部門は会員維持や売上増強の意識が生まれる。こうした活動に全社で取り組むことを目指す。


統合マーケティング部のミッション

今後は、スマートフォンファーストが進み、クレジットカードもスマートフォンの一部となっていくなかで、Web顧客基盤とWebユーザービリティの向上を目指していきたいと佐々木氏は話す。そこでは、いかにしてWebチャネルのなかで顧客を先取りしたコミュニケーションを行えるかが重要になる。

そのために3年後には、マイナス体験を最小化して、プラス体験を最大化していく必要があるという。


マイナス体験を最小化、プラス体験を最大化

三井住友カードでは、統合マーケティング部が発足して顧客思考のマーケティングを追及する取り組みが始められたが、今後顧客の変化にいち早く応えるためには、マーケティング、IT、UXが重要だと佐々木氏は最後に話した。

「マーケティングをITで下支えし、顧客に理解して使ってもらえるデザインを実現するUXが必要。マーケティング、IT、UXの3つが1つの組織で有機的に回っていく必要がある」(佐々木氏)

 

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